sisosuseのブログ

日々感じたことを思い思いに書いていくブログです。

ジョジョリオン妄想─康穂の呪いについて─

 

前回の続きです。透龍とカレラが二重人格の関係にあるとすることで、カレラの不可解な言動を説明できるのかについて書いてきました。今回もその続きを書こうと思ったのですが、私のジョジョリオンに対する情熱が枯れてしまったので、「カレラ=透龍」説を残したまま「ジョジョリオン」全体への考察に路線変更しました。結論からいって、カレラの行動についてはほとんど説明を諦めました。

 

前回の記事

sisosuse.hatenablog.com

 

これまでの整理

便利のために前回の記事で書いたことを整理します。

透龍とカレラの関係性についての仮説と両者の行動目的

透龍が表に出ているときにカレラが人格の出し入れをコントロールできてはならない

2)透龍もカレラも自身の意思を明確にもっている

3)カレラが表に出ているときに透龍が人格の出し入れをコントロールできてはならない

4)透龍がカレラとコミュニケーションでき、カレラに命令、少なくともお願いできる立場になくてはならない

 

透龍の目的:ロカカカを手に入れる

カレラの目的:せっちゃん(定助)と親密になる

 

カレラの行動説明

ロカカカを手に入れ、せっちゃんに気に入られるように行動(A)。札幌に行っていたというのは、吉良vsダモガンから音信不通になった後のことを調べ、せっちゃんに接近しようとしていた期間のことを隠すための方便(C)。せっちゃんを見つけて合図を送ったが、わからない様子の定助を見て、擬態をするタイプの敵スタンドと判断し、その場を離れた(B)。しかし勘違いとわかり、ロカカカを入手しせっちゃんとの仲を深めるためにロカカカビジネスへの参加に意欲を見せた(N)。

 

残る疑問

・カレラと密売人グループの関係

なぜ命を狙われているのか(E)、なぜ兄弟に追われているのか(F)、なぜ吉良が死んだら吉良のマンションに行けないのか(I)、なぜ吉良が死んだと聞いて慄いたのか(J)、なぜ吉良が殺されたと思ったのか(K)

 

・過去編との辻褄

なぜあの写真を持っているのか(D)、なぜロカカカ等の話を知っているのか(G)、なぜロカカカを処分したと発言したのか(H)、他人同士を交換させるのは新ロカカカではないのか(L)、クソッタレ世の中から抜け出す発言の真意は何か(M)

 

良い解決とはどのようなものか

 さて、ここまで妄想を進めてきましたが、妄想が語るストーリーは無限と言っていいほどに多様であり得ます。私はカレラ=透龍説を提唱しましたが、実はカレラ=一巡後にスタンドを手に入れたカーズであり、真のスタンド能力は全人類の行動を操作することである、などといってもいいわけです。しかしこれは明らかにナンセンスですね。ではセンスのある説とセンスのない説を区別する基準はどこにあるのでしょうか。

 

 良さを決定する基準は妄想者の目的に求められるべきでしょう。私は「もしも〜だったらな」と純粋に妄想を楽しむタイプの同人誌的な妄想をしたいわけではありません。妄想といっても仮説提示・考察・解釈といったタイプのものであり、正直にいって筋の統一性という観点から崩壊していると言わざるを得ない、しかしどこか魅力的な「ジョジョリオン」という作品をいかに一貫した物語として(失礼な言い方ですが)復活させられるかに興味があります。したがって、私が良い妄想と判断する基準は以下のようにまとめられると思います。

 

1)無矛盾基準

 

 作中の内容と矛盾しないことを言っています。当然の基準でしょう。

 

2)仮定の根拠の強さ基準

 

 しかし1)だけでは「作品の内容」とはいかなるものか、判断が分かれるかと思います。というのも、作品の語り自体がミスリーディングであるとすれば、理屈上どの内容も嘘であるということができ、自分の納得のいかないところだけを虚偽と見なすことができてしまいます。これでは事実上「なんでもあり」な状況を改善できません。したがって、何らかの納得できるような根拠を課すことにします。これが2)の意味です。

 

3)説明可能範囲の広さ基準

 

 作品を点の集合(とそれらをつなげた筋)、仮説を線だとして、仮説がどれだけ作品の点を通過できるか、といえばイメージがつくでしょうか。どれだけたくさんの内容・疑問を解決できるかの指針となります。

 

4)オッカムの剃刀基準

 

 なるべく少ない仮定を用いて説明する、といった意味の有名な基準ですね。なるべくエレガントに解決したいということを表現するために用いています。

 

解答

 この基準に照らして高得点を得られると思う、私の「ジョジョリオン」解釈はこんな具合です。

 

 康穂のスタンド能力<ペイズリー・パーク>の真の能力は厄災の対極たる「祝福を操作する」能力である。被祝福対象は第一に康穂自身であり、幼少期の父親の不在を契機としてあたたかな家族をもつことを目的すなわち祝福そのものとする。この祝福は父親の不在への潜在的恐怖という呪いから解放されることによってなされるのであり、解放は1)欠損者の死、2)欠損者の回復、3)家族の再生という体験を4)確認・追体験・物語化することによってなされる。

 そして1)、2)、3)の体験を運命的に背負い、康穂の前で演じきったのが透龍、定助、東方家である。母親の不在に苦しみ、母親の獲得に失敗した透龍は死に、対する定助は母親の庇護を受け自己肯定的充足を得ることに成功する。運命的に崩壊状態にあった東方家は一つにまとまることができた。<ペイズリー・パーク>はこのような状況を導き、康穂は彼らに投影同一化・「ジョジョリオン」として語ることで祝福を得たのだった。

 他方、康穂の祝福は他の祝福を手段とする。定助、東方家、そして透龍は第二の被祝福対象でもあった。ただし透龍は事情が複雑である。透龍は康穂と破局した衝撃で自己が分裂しカレラという人格が生まれることになった。カレラは透龍にとっての康穂である。透龍は康穂になりきることで、康穂を理解しようとした。せっちゃんを愛した。しかし吉良に利用されてしまう。決して解くことのできない謎に直面することを強いられ衰弱する透龍にとって唯一の希望はロカカカだった。しかし本当はロカカカでも解決できないことに内心気づいていた。最後、死をもってこの苦悩から解放され、無知の不可知を脱却した。

 祝福の操作は運命の操作であるが、運命は人間意思に選択の自由を残してくれる。学校に行く・いかない、スタジアムに行く・いかない、意味深な新聞記事(宝石の赤ちゃん)を調査する・調査しないなど作中に明記された選択肢は<ペイズリー・パーク>の発現を示している。

 

 1)、2)、3)の説明は過去の記事を参照していただくとして、全て<ペイズリー・パーク>が裏で糸を引いていた、というのが大まかな流れです。確かに最初に挙げた例のように「カレラ=カーズが人類を操作している」レベルの強い条件ではあります。しかしジョジョはぶっ壊れ能力が度々登場していて、透龍も然りです。前述した通り、許される仮説と許されない仮説の区別は、それを示唆する根拠がしっかりしているかに求められます。

 

 根拠は下のようなものです。a)作中で示唆される<ペイズリー・パーク>の能力が人を良い方向へ導くといったもので、「祝福の操作」とはその能力が長期的に働いた場合をいうと説明できる。b)康穂の家庭環境があまりよろしくないことが作中で描写されている。c)康穂がナレーションというメタ的な視点を務めている。d)透龍との対立が示唆されている。e)ジョジョのテーマが人間讃歌であり運命を背負いつつもそれに流されない人間像を描いている。

 

 なお、この説は精神分析学チックですが、私はその分野に特別詳しいわけではありません。

 

おわりに

 冒頭に前置きした通り、以上の説明はカレラの不可解な行動の説明になっていません。唯一あるとすれば、(M):クソッタレ世の中から抜け出す発言の真意について、無知の不可知にもがく透龍の本音と解釈できるというくらいです。しかし、今回の考察でカレラ・透龍・康穂・定助の関係が色濃いものとなり、スタジアムに行くかなどの回収されなかった方向性を一応説明できた他、ジョジョリオンのテーマである「呪い」と「呪いからの解放」の意味をより明確にできたのではと思います。

 

 とはいえ謎は謎のままです。カレラが残していったものだけでなく、回想での謎の男、ダイヤの足が爆発した件や東方家の最初のラスボス感、ロカカカのかけらを食べた犬の物語上の存在意義、夜露発言の矛盾などいろいろありますね。私自身は瑣末な問題だと思いますが、日付や年齢の計算が合わなかったりもするようです。また壁の目や岩人間、ロカカカ等のキーワードが未だ充分に説明されていません。個人的には虹村などの犠牲者が出たことやホリーさんの病気が治らなかったことの意義についても気になっています。

 

 これらのうちいくつかは旧約・新約聖書を参照したり、東日本大震災を重ね合わせたりすることで解決できるかもしれません。あるいは等価交換というキーワードも有用かもしれません。しかしとりあえず「魅力的な世界観と何枚かの奇抜かつ美しい絵と、いくつかの熱い心理戦は良いが、破綻したストーリーと物語進行をセリフに任せっきりな展開と、お世辞にも上手いとはいえない動き描写が良くない」作品とジョジョリオンを評価して、9部を楽しみに待ちたいと思います(もうすぐですね)。

 

過去の記事

 

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